電池メンタル社会人日記

映画やライブの感想書きます

カナザワ映画祭の監督たち②(大野大輔、岩切一空)

大野大輔(2016年にグランプリ受賞)

見た作品『アストラル・アブノーマル鈴木さん』(18)

こじれた少女の鈴木ララが描かれる。双子の妹だけが女優オーデションに受かったときからこじれ出す(その前からこじれてもいたのだが)。ララはyoutuberとして活動を始める。テレビ局のレポーターに「あんたみたいな子意外といるよ」と言われ、塾の教え子の上手すぎるギターと歌を聴いたときに肥大化したプライドが砕け散りララは泣きくずれる。

 

メディアは嘘つきがテーマになっている。強引にLGBT問題に持っていくインタビュアー、無理矢理節約家のお母さんとして紹介するリポーター、女優の妹の家族はマウイ出身でタロイモドーナツがおふくろの味になってる番組。字面だけ見ると悪徳だけど、とにかく笑えるつくりになっている。この映画の笑えるセンスがとにかくツボだった。結婚方向の場面での「九州男児だから女は引けってかぁーーー」「みーーとゅーーーーー」というセリフは最高だし、ララが引退する場面でアンチのモジャ夫がやってくるなど映画はずっと面白かった。

 

この映画を見れば誰でも松本穂香のファンになると思う。塾講師のスーツ姿、家でのパジャマ姿、エンデイングの全力のダンスがとにかく可愛い。

 

岩切一空(2016年に観客賞受賞)

見た作品『花に嵐』(17)

大学の新歓期に映画サークルに加入した主人公は2週間カメラを借りて映画を撮ることのする。あるとき、古谷先輩がラストシーンが撮れず中止した映画があると知る。主人は同じ部員の花に小道具を古谷宅に取ってきて欲しいと頼まれ取りに行く。その小道具とは包丁であった。過去に花は古谷の映画で本物の包丁を使ってしまい死んでしまったのだ。主人公の前に現れた花は幽霊の女の子だった。花は当時の撮影メンバーを包丁で殺しにまわる。

 

映画を惹きつけるものが揃っていた。まず女の子。サークル勧誘で誘ってくれたありさ先輩はとても美人で優しく指切りまでしてくれる。花はゲロ吐いた主人公にキスして童貞喪失をせまってくれる。古谷先輩はモテモテで家には生足の女の子5〜6人と遊んでる。主人公はその家で女の子の下着姿を目撃する。次に展開。家に潜入する場面や車を勝手に運転する場面のドキドキ感は定番を抑えてる。花が包丁持って追いかけてくるシーンの話がガラッと変わる恐怖も良かった。

 

前半の映画サークルの感じがリアルすぎて同じ大学生として嫌な汗が出る。あんなに優しかったありさ先輩は部費の催促がすごいしイジってくるし声が冷たいし。映画鑑賞会でカメラを持ってきた主人公に「え、もう撮ってんのwwww」と若干小バカにした部員達は観終わった後も感想を喋らず恋バナ。お前ら映画好きなんじゃねーのかよクソどもが*1!!また、構成も素晴らしい。カメラの借用期間が2週間という設定で「カメラ返却まで〇〇日」という進行も分かりやすくていい。基本的には借りたカメラで一人称のブレブレ手持ち画面なのだが、ラストの花が追ってくる展開になるとカメラワークと照明がバキバキに決まった3人称視点になる。今まで溜めていたものが破裂するかのような爽快感がある。カメラが変わることでカタルシスを描くとは、なんて映画的な発想なのだろう。カメラが変わったときの電子ノイズ音楽もちょーかっこいい。その後、主人公はいつの間にか上空にいて浜辺に降りると花が死なない撮影風景の世界にたどり着く*2。海と空が綺麗でクライマックスにふさわしくロケーション抜群。ラストに飛躍する物語が個人的にツボなのでこの展開は大満足だった。

 

この映画のすごいのは主人公を岩切監督自身が勤めてること。そうすることで何重にもメタ的な意味合いが膨らむ。劇中に何度も出てくる花の「やり方がわかるからやるんじゃないでしょ。やりたいからやるんでしょ」というセリフが心を打つ。

*1:監督はそんな意味でこのシーンを撮ってないかもしれない。けれど僕の被害妄想フィルターを通すとそんな意味合いに捉えて見えてしまう

*2:この場面をどうやって撮影したか気になる